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■売れたマーケティング、バカ売れトレーニング:売れたま!■
〜MBAの中小企業診断士がそっと教えるパワフルレッスン〜
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━特別編Vol.080 2010/02/11
購読者:21,404 (まぐまぐ:15,600 メルマ!:678 めろんぱん:5,126)
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■■_新春特別号:ボロが教える戦略BASiCS 完結_■■■
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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 今日のポイント ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
●BASiCSは「想い」の結晶。想いを確固たるものにし、引き継
いでいこう!
┃売れたま!は、実戦マーケティング戦略の副教材です。売れたま!
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◆新春特別講義 ボロが教える戦略BASiCS 〜 白ネコ 外伝
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「白いネコは何をくれた?」のメンター、白いネコのボロが教える、
戦略BASiCSの奥義。
希代の戦略家、ボロが教えるBASiCS実戦講座!
白いネコは何をくれた 「あれから3ヶ月後」
です。
今回は連載11回目にして、ついに完結!
●これまでのあらすじ
広告代理店、サンデー広告社は、大口取引先の化粧品会社を失うとい
うピンチを、営業担当(当時)の日向実直(ひなたさねなお)、制作
担当(当時)の鳥野智子(とりのともこ)、高見理香(たかみりか)
の活躍で何とか乗り越えた。
そのときのメンターが、言葉を話す白いネコ、「ボロ」。
(この活躍は、拙著「白いネコは何をくれた」でどうぞ)。
その活躍により、日向実直は初代戦略プランナー、鳥野智子は初代ク
リエイティブプランナーに就任。高見理香はアートディレクターに昇
進。3人で仕事を進めるようになった。
同時に、危機を乗り越えて共鳴しあった実直と智子は恋人同士として
その仲を深めていった。
実直は、あらたなクライアント、サンライズビルからの発注を得た。
サンデー広告が入居する超高層オフィスビルだ。その営業戦略と営業
ツールを見直して欲しい、という。
早速、実直と智子は戦略BASiCSで営業戦略を考えて行くことに
した。クライアントはオフィスビルなので、その顧客であるテナント
は法人。BtoCである化粧品と違い、BtoBの営業戦略の戦略提
案には戸惑いを感じた。
実直と智子は深夜まで会社の会議室で2人は議論を重ねるが、行き詰
まり、いつしか深い眠りへと落ちると、いつの間にか白いネコ、ボロ
が目の前に現れ、教えを授けると、消えてしまった。ボロの教えは、
やはりBASiCS。
BASiCSに基づく「魔法の質問」を使い、顧客ヒアリングを終え
た実直たち。
顧客によって重視するポイントが変わるので、それぞれ違うメッセー
ジを送ろうとするが、「そんなことできるのか?」という疑問が理香
から放たれ……
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◆セグメントごとにメッセージを変えるなんてできるのか?
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智子:これで、顧客セグメンテーションができたね!
実直:うん。7〜8個ある顧客セグメント別に、重要な強みが違う。
だからセグメントごとにセールストークを変えるんだ。
智子:そうだよね。外資系には、海外のお客様を迎えるにあたって、
ホテルが隣にあることとか、空港アクセスが便利なことを……
実直:うん。営業支社として使う会社には、高速出入り口がビルの横
にあることとか、便利な駐車場、貸し会議室……
智子:コールセンターとして使う会社には、強固な地盤で耐震性があ
るからIT設備が入れやすいし、女性労働力も採用しやすい…
理香:ちょっと待て、そんな複雑な営業できるのか?
智子:なんで? 相手に合わせて営業トークを変えるのなんか、当た
り前でしょ?
理香:相手のニーズがわかっていれば、ね。ここで言うと戦場、か。
営業さんはどのタイミングで、お客様の戦場がわかるんだ?
智子:そっか……最初に訪問するときとかはお客様の情報が無いわけ
だからね……競合のビルとかがわからないから……
実直:最初に営業に行くときに聞けばいいんじゃない? 競合のビル
はどんなビルをお考えですか、って。
理香:でも、どんな情報を持っていけばいいか、わからないだろ?
全セグメント向けの資料一式全部持っていくのか?
実直:そっか……
智子:それに必ず会って説明できるとは限らないわ。資料を送って、
っていう場合のときもあるよね?
実直:確かに……どんな資料を送ればいいのか、わからない……
智子:それだったら、今まで通り、全セグメント共通のパンフ送る?
実直:それじゃ意味ないよ。
智子:うん……
実直:お客様によってメッセージを変えないといけないことだけは確
かだと思うんだけど……
理香:それはわかる。だからどうやって、って聞いてる。できないっ
て言いたいわけじゃないが、どうやるかがわかんないと……
実直:そりゃそうだよね……机上の空論になっちゃう……
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◆BASiCSを中核に、営業プロセスを変える!
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智子:ね、お客様との最初のコンタクトって何が起きるんだろうね?
電話かな? それともメールなのかな?
実直:た、確かに……多分電話とかじゃないのかなあ……
理香:なんて言って電話かかってくるんだ?
実直:さあ……真剣に考えてるのなら、「説明にきてほしい」とかっ
て言うんじゃない?
理香:いきなりかぁ? その前にHP見たりするんじゃないのか?
実直:そ、そう言われると……どうするんだろう??
智子:ね、なおくん、ほら、今回学んだじゃない? 迷ったら……
実直:そうか! 迷ったら顧客に戻れ! 聞いてみよう!
理香:だれに?
実直:うちの会社のオフィスビル意思決定者に。三出社長だよ!
理香:なるほど!! そりゃあいい!
言うが早いか、実直たちはバタバタと立ち上がり、三出のいる社長室
に駆けだして行った。
しばらくの後、3人は再び会議室に戻ってきた。
実直:なるほどね〜。まずは資料を送ってもらって、説明に来てもら
って、気に入ったら実際に見に行く……
智子:考えてみれば当たり前よね、ふふふ。
理香:で?
実直:やっぱり、最初のコンタクトで聞いた方がいいと思う。セグメ
ントとかニーズを確認しないで営業に行くのは危険だよ。
智子:何を聞くの?
実直:僕らはもう答え持ってるじゃない。ほら、3つの魔法の質問。
B、S、Cを聞けばいい。
智子:あ、そっか……そうだよね、これでセグメントが推測できるん
だもんね。
理香:ちょっと待て、電話であんなめんどくさい質問するのか? し
かも初めての電話で? 相手はドン引きだぞ……
実直:うん……もっと質問減らした方がいいかな……例えば……
実直は、椅子から立ち上がってホワイトボードにキュキュと書き出し
ていった。
●質問1 B:競合
・住所を聞く:これで、今どのビルにいるのか、がわかる
・他に検討しているビルを聞く
●質問2 S:強み
・引っ越そうとしている理由を聞く
●質問3 C:顧客
・使い方を聞く:本社か営業支社か、など
実直:住所を聞くのは自然だと思うから、実質質問は3つ。3つくら
いなら、2分以内で聞けると思うよ。
智子:ね、ね、ちょっとやってみよう。私、電話する役ね!
実直:あ、面白いね。やってみて、やってみて。
智子:えっと……トゥルルルル、ガチャ。あ、あの……サンデー広告
総務部の鳥野と申します。
実直:は〜い、お世話になっております。
智子:は、はい……あ、あの……今オフィスの移転を検討しておりま
して、サンライズビルの資料を送って欲しいんですけど……
実直:あ、はい、ありがとうございます。お送り先のご住所をいただ
けますか?
智子:はい、豊島区の……サンデー広告 総務部 鳥野宛にお願いし
ます。
実直:はい、承知いたしました。あ、すみません、よりお役に立てる
資料をお送りするため、少しだけ質問させていただけますか?
智子:え、ええ。今忙しいので、手短にお願いします。
実直:すぐすみますので。お引っ越しを検討されているのは、本社で
すか、それとも営業支社などの特定の部署でしょうか?
智子:あ、えっと……会社全体ですね
実直:大体何名くらいでしょうか? ご希望の広さもいただければ…
智子:50名で、広さは……○×平米くらいで……
実直:なるほど、それで、お引っ越しをお考えになられている理由は
どのようなものでしょうか?
智子:最近人数が増えて、手狭になってきたもので……
実直:ありがとうございます。最後に、他に検討しているビルはござ
いますか?
智子:は、はい、新宿の△○ビルとか……
実直:はい、ありがとうございました。では送らせていただきます。
実直は、ふうううう、とため息をついた。
智子:わあ、なおくん、上手だね〜
ぱちぱちぱちぱち、と智子が拍手しながら言った。
実直:ね、これでどう? これなら聞けるんじゃない?
理香:ああ……これくらいなら行けるか……そんなにしつこくもない
しな……
実直たちは、「ストラテジー&タクティクス」、すなわち戦略と戦術
の「つながり」がカギであることをわかっていた。
理論や机の上では可能なことも、実際にやってみると「やっぱりでき
ない」ということが結構ある。
「セグメント別にメッセージを変える」というロジックに異論を唱え
る人は少ないだろう。しかし、それが現場で実戦できなければ意味は
ない。
だからこそ、「本当にできるのか?」という理香の確認を真剣に受け
止めて、実際にロールプレイをやってみたわけだ。
もちろんここで「やっぱり無理だ」ということになれば、別の方法を
探すか、それでもダメならそもそも戦略が机上の空論だったことにな
る。その場合は、戦略そのものを考え直すことになる。実行できない
戦略に意味はない。
このように、ストラテジー→タクティクス、タクティクス→ストラテ
ジー、と思考のサイクルを回すのだ。だから、ストラテジー&タクテ
ィクス、「成功のカギは&にある」のだ。
ストラテジーが考えられる人は戦略コンサルタントをはじめ多くいる
し、タクティクスができる現場系マーケターもたくさんいる。問題は
その「両方」ができて、ここで思考を回せる人間が極めて少ないこと
なのだ。実直たちは、今まさにこの壁を乗り越えようとしていた。
実直:今まではこういう聞き方はしていないわけだから、それだけで
も結構大きな進歩だよね?
智子:うん。この情報で仮説は立てられるね。あとはその会社のHP
とか見て、情報を取れるところは取ればいいし。
理香:メールで資料送付依頼が来たらどうする?
実直:そうか、メールか……どうしよう……?
理香:待てよ、自分で言っておいてナンだけど、どうやってメルアド
がわかるんだ……普通はHP見てからか……そうだよな……
智子:り、理香、ど、どうしたの? 一人で聞いて一人で答えて……
理香:そうか! HPのフォームで記入してもらえばいいのか!
実直:た、高見さん、どうしたの? 説明してよ。
理香:いや、メールがいきなり来ることは無いかな、と思ってさ。そ
もそもメルアドがわからないわけだから。
智子:だから?
理香:だから、HPを見てメルアドを知るわけだろ? だったらHP
に問い合わせページを作ればいい。そこで聞くんだよ。
実直:そうか! HPの問い合わせページで、3つの魔法の質問の答
えを記入してもらえばいいんだ。
理香:そういうこと。問い合わせ経路は電話、メール以外にないか?
実直:不動産屋さん経由でも問い合わせが来るって言ってた。
理香:そうか……でもそれも同じだな。不動産屋さんに、魔法の質問
の記入シートを渡しておいて、それを書いてもらえばいいな。
実直:うん……できそうじゃない? 単純な3つの質問だからさ。そ
んなに変な質問でも無いし。
智子:うん、私もその提案でいいと思う。今までやってなかったわけ
だから、それよりは確実に良くなるわ。
理香:まあそうだな。答えてもらえなかったら、別に今までと同じっ
ってだけだから、害はないはずだな。
高見理香も、実直と智子がやったのと全く同じように、ストラテジー
とタクティクスの間の壁を乗り越えようとしていた。自分のアタマの
中だけで、その思考の「ぐるぐる回し」をしたのだ。
実直:じゃあ、ついに完成だ! BASiCS式営業プロセス!
智子:最初のコンタクトで、3つの魔法の質問をして、お客様のセグ
メントを仮説的に考える
実直:その後で、そのセグメントにあったパンフなり、営業ツールな
りを送ったり説明する……
理香:それでセグメントによって、全く違うメッセージを送る、か。
いいんじゃないのか、それで。
智子:なおくん、やったね!
実直と智子は同時に立ち上がり、ハイタッチをした。ぱあん、という
音が会議室に響く。
智子:ほら、理香も!
理香:あ、ああ。やったな、「なおくん」、「ともちゃん」、ははは
理香も思わずつられて立ち上がり、ハイタッチに加わる。
智子:いえーい! やったね!
理香:智子が「いえーい」なんて言うの、初めて聞いたぞ。なあ、
「なおくん」?
実直:い、いや、僕と一緒のときはともちゃんいつもこんな感じだけ
ど……? カワイイじゃん。
理香:へえ、そうなのか、「ともちゃん」? なんだ、「なおくん」
といるときは別人になるのか? このこの〜
智子:そ、そんなことないわよ……な、なおくん、そんなこと言わな
くていいから……
理香:まあとにかくナンとかなって何よりだ……一時はどうなること
かと思ったけどな……
実直:じゃあ、早速サンライズさんにプレゼンに行こう! 大分楽し
みにしてるみたいだし。2人の都合を教えて。アポ取るよ。
実直は、3人のスケジュールを調整し、早速サンライズビルに電話し
てプレゼンの日程を取った。
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◆クライアントプレゼン
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ついにプレゼンの日。実直は、あえて大げさな資料を作らずに、サン
ライズの担当者へのプレゼンに臨んだ。
実直:まず、「戦略BASiCS」という考え方について説明させて
ください。マーケティング戦略の要素は5つあり……
実直は、完全に自分のモノとした戦略BASiCSを、色々な喩えを
使いながら、ホワイトボードに書いていった。
サン:なるほど……戦場・競合、独自資源、強み、顧客、メッセージ
の5つですか……わかりやすいですね……
実直:ポイントは、この5つの要素の一貫性です。
サン:サンライズビルの営業戦略もそれに基づいて考えるべきだ、と
いうことですよね?
智子:はい、そうです。
サン:それで、何かわかったんですか?
実直:この答えを持っているのは、お客様です。競合とは、サンライ
ズビルに移ってくる前のビルだったり……
智子:同時に検討している他のビルだったり、ですよね?
2人がぴったり息のあったプレゼンを続ける。
サン:なるほどなるほど。
実直:それで、サンライズさんの「強み」は、サンライズに引っ越し
て来る理由ですよね?
サン:どういうことですか?
実直:サンライズに引っ越してくるには何か理由があるはずです。そ
れは、他のビルでは解決できない、何かですよね。
サン:そうか……だからサンライズに引っ越してくる……
実直:そして、それは顧客ごとに違いますよね? 例えばコールセン
ターなら……
サン:あ!! わかった!! あのヒアリングは、こういうことだっ
たんだ!! これを知るための質問だったんですね!
3人は、こくりとうなずいた。
サン:なるほど! なぜ皆さんがあの質問を繰り返ししていたのかわ
かりました! BASiCSですか、これを把握していた!
実直:そうなんです。当初、私たちは、テナントさんのニーズを考え
るにあたり、業種や企業規模から分析しましたが……
智子:そこで行き詰まってしまったんです。ニーズがどうしてもわか
らなかったんです。
実直:そこで、弊社社長の三出に聞いて、社長のオフィスビルに対す
るニーズはどんなものかを確認したところ……
サン:あ、それは伺いましたよね。いいビルに入れば、人材の定着率
が高まるとおっしゃったと……
実直:はい。ただ、それは弊社の場合です。ヒアリングしてわかった
通り、会社ごとに違います。
サン:そうなると、顧客の分だけこのBASiCSができるというこ
とですか?
智子:はい、そうなんですが、それだと打ち手が難しくなります。あ
まりに複雑になるので……
実直:それで、このようにニーズをまとめてみました。本社、営業支
社、コールセンター、外資系本社……
実直たちは、セグメントごとにまとめたBASiCSをホワイトボー
ドに書いていった。
サン:ふむふむ……はい、私もヒアリングに立ち会わせていただきま
したが……確かにBASiCSだとうまくまとまりますね……
実直:ええ。今回わかったことは、カギはビルの「使い方」です。
サン:使い方、ですか? ビルの??
実直:ええ。コールセンター、というのはある意味ビルの使い方、で
すよね。その使い方だと、地盤や耐震性が重要になる……
理香:だったら、そのようなお客様には、地盤が強くて耐震性がある
という「メッセージ」を伝えれば……
サン:ええ! それがこのセグメントには重要なことなんですから、
響くメッセージになりますよね!
実直:そうなんです。ですから、今回の営業戦略、営業ツールのカギ
はそこになります。
智子:違うセグメントは違うニーズを持っているので、セグメントに
合ったメッセージを伝えてあげるんです。
サン:それは、営業担当者がやればいい、といことですよね……なる
ほど……それはいい……
実直:今までは、全ての会社に対して、同じパンフや資料を使ってい
らっしゃいましたよね?
サン:ええ……ですが、確かにそれでいいはずはない……みんなニー
ズが違うわけですから……
智子:だからこそ、そのニーズに合わせて説明してあげた方が、受注
しやすくなると思います。
実直:まだ全部を完全にまとめきれてはいませんが、大体セグメント
はこのようになるかと思います。
サン:うん、うん……ええ、特殊な企業を除けば、確かにこんなもの
ですね……うまくまとまるものですねえ。いや、驚きました。
実直:ありがとうございます。この「ニーズ」さえわかってしまえば
あとは、そのニーズに応じて営業すれば……
サン:ただ、ちょっと難しいですよね……どのタイミングで、このニ
ーズを把握するんですか?
智子:お客様からの最初のコンタクトは、電話かメールですか?
サン:ええ、そうですね……それで、資料送ってくれ、って言われた
り、説明に出向いたり……
3人はお互いに顔を見合わせて、うん、とうなずき合った。予定通り
とでも言いたげな顔だった。
智子:例えば資料をお送りになるとき、今までは、全てのお客様に同
じパンフをお送りしていましたよね?
サン:ええ。ただ、セグメントによってメッセージを変える、と言う
のはわかりますが、どうやってセグメントを知るんですか?
実直:はい、この3つの質問を最初にされたらいかがですか?
実直は、A4の紙をサンライズの担当者にわたした。
●質問1 B:競合
・住所を聞く:これで、今どのビルにいるのか、がわかる
・他に検討しているビルを聞く
●質問2 S:強み
・引っ越そうとしている理由を聞く
●質問3 C:顧客
・使い方を聞く:本社か営業支社か、など
実直は、ちょっとやってみますね、と言いながら、前に智子とやった
電話で受け付けるロールプレイを実演した。
サン:なるほど……その聞き方なら確かに電話で聞いても不自然じゃ
ないですね……
実直:この質問で、ニーズがかなり把握できますよね? それはこの
あいだのヒアリングで実証済みかと……
サン:いや、その通りです……メールの場合はどうします?
理香:メールアドレスを知るのは、御社のHPを通じて、ですよね?
サン:そうでしょうね。
理香:でしたら、HPに問い合わせページを設置して、そこから問い
合わせしていただくようにされたらいかがですか?
サン:あ……なるほど、その問い合わせページで、この質問をすれば
いいんですね……
理香:ええ。
サン:なるほど! わかりました! とにかく、一番最初のコンタク
トの時点でこの3つを把握する、と。
理香:そうですね。どうしても答えないお客様の場合は、今まで通り
の営業で良いかと思います。
サン:あ、確かに……そうですよね。どこまでうまくできるかはわか
りませんが、とにかくやってみましょう!
サンライズビルの担当者はワクワクしたような顔をしながら、セグメ
ント別BASiCSを見つめている。
サン:ということは、結構複雑な営業ツールになりますよね……コス
トが結構かかってしまいませんか……?
はたと気付いたように、サンライズビルの担当者が再び不安な顔をし
た。
理香:複雑というか、場合分けが多いツールになります。
実直:なるべくコストがかからないようにはしますが……
智子:印刷するものと、カラーレーザーでプリントするものとを分け
ませんか? 数が少ないセグメントは印刷しなくても……
サン:あ、なるほど……その手がありますね……
理香:ええ、共通部分は印刷して、それ以外のセグメントによって変
える部分は、レーザーでプリントして差し替えれば……
実直:それに、全部カラーにする必要もありませんし。
理香:ええ。カラーが必要な部分はカラーにしますが、そうでない部
分は白黒にして、コピーするようにされていはいかがですか?
サン:なるほど、そうすれば印刷の費用はそれほど変わらない……
実直:はい……あらためてお見積もりはしますが……
サン:方向性はこれで結構ですよ。いやあ、面白そうなプロジェクト
になりましたね。
智子:はい、そうおっしゃっていただけると、嬉しいです。
智子の美しい顔に満面の笑みが咲く。理香も満足そうにうなずいた。
サン:今回、営業もヒアリングに同行させましたが、すごく面白かっ
と言ってましたよ。彼らもやる気になってるので……
実直:はい!!
智子:次からは具体的な話になりますね。パンフの内容や、体裁……
サン:では、次からは営業も同席させます。実際に営業するのは彼ら
ですから……
実直:はい、そうしていただくと、営業さんも動きやすいと思います
サン:うーん、楽しみだ。いや、さすがサンデー広告社さん。御社に
頼んで良かったですよ。
実直たちは一番聞きたかったその言葉を聞いて、破顔した。
智子:なんと言っても高級ビル、サンライズに入っている会社ですか
らね!
みんな、ははは、と笑った。それは、プロジェクトの戦略フェーズが
終わった合図でもあった。
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◆BASiCSは「当たり前」のこと
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打ち合わせが終わると、3人はそのままサンライズビル最上階のある
レストランに向かい、休憩をすることにした。
柔らかな夕陽が迎えるレストランで、3人は飲み物とケーキなどを思
い思いに注文した。
実直:かんぱーい!
3人は、ソーダなどが入ったグラスをチンとならした。
智子:よかったね、うまく行って!
実直:うん、ともちゃん、高見さん、ありがとう!
理香:いやいや、BASiCSってすごいな……
智子:り、理香、どうしたのよ。珍しく素直じゃないの。
理香:い、いや、ここまでの説得力を見せつけられると、アンタらの
言うこともバカにできないな、と思ってさ。
智子:な、何よ、理香、そんなこと思ってたの?
理香:まあ正直ここまでうまくいくとはなあ……
実直:でもこれでわかったでしょ? お客様によって競合が変わると
か、言うべき事が変わるとか……
理香:あ、ああ。当たり前のことなんだけどな。あらためて思い知ら
されたよ。
実直:そう、当たり前のことなんだ。お客様によって重視する点が変
わるとか、比較対象である競合が変わる、とか。
智子:でも、最初は悩んだよね〜。
実直:うん。反省をこめてまとめてみよう。今回わかったことは、ま
ず、BtoBでもBtoCでもやっぱり同じってこと。
智子:でも、見え方が違うから、注意しないとね。BtoBだと、部
署とか、役職まで考えないと……
理香:いや、違うと思う。アンタら、本質を見失ってた。アンタら、
ったいうか私もだけどさ。
実直:どういうこと?
理香:今回私もヒアリングに参加させてもらってわかったけど、基本
はやっぱり「人」だよ。会社とか部署とかじゃなくてさ。
実直:な、なるほど、基本は「人」か……
理香:ああ。どんな人にどんなニーズがあって、っていうのが先で、
たまたまどんな会社のどんな部署にいるか、で違うだけだよ。
智子:面白いわね。いる「場所」によって「役割」が違うってことね
理香:傍から見てて言わせてもらうけど、アンタら考えすぎ。顧客の
リスト見ながら悩んでるくらいなら、直接聞いた方が早い。
実直:そ、そりゃそうだ。実際三出社長にヒアリングして、すっごく
進んだし……
理香:私にも勉強になった。結局、どんな人がどんなことを考えてる
か、それが集団ではどうなるか、っていうだけだよ。
実直:会社も人の集まりだからね。
理香:ああ、その意味で、サエナイが言ってたBtoBもBtoCも
一緒だっていうのはそうだと思うよ。結局は「人」だからな。
実直:それが僕の学びその2で、「会社」って、大きく見るんじゃな
くて、どんな人がどう考えるか、っていうのが大事だよね。
智子:あ、それ、私も思った。会社の意思決定プロセスって、複雑の
ように見えて、結構当たり前だったね。
実直:うん。社長は利益が大切で、会社全体のこと考えてるとかね。
理香:私はアレだな、こんなにセグメントによるニーズの違いがクリ
アになるとは思わなかったよ。
智子:でも今までだって、クリエイティブ作るときにはターゲットに
よって変えたりしたでしょ?
理香:ターゲットによって伝え方は変えたけど、比較対象とか、強み
までが変わるとは正直あまり考えてなかった。
智子:それって、媒体の制約もあるんじゃないかしら? TVCMと
かパッケージは、ターゲットに合わせて変えるのは難しいから
理香:あ、そうかもしれないな。だからそういう発想になるのかもし
れない。
実直:営業担当者がいる場合は、相手に合わせて柔軟に変えられるか
らね。BtoBって面白いよね。
理香:これ、うちの会社のメニューにすればいい。BASiCSを考
えて、ターゲットに合わせたコミュニケーションする……
実直:あ、そうかも。ニーズを探って、その切り口でセグメンテーシ
ョンして、HPを作る、みたいなパッケージメニューできるね
智子:なおくん、そういう商品展開を考えてみたら? サンデー広告
社の成長戦略の一環として。
実直:そうだね! 社長に提案してみるよ。まあ、だったらオマエや
れ、って言われるのがオチだと思うけどさ。
智子:ああ、あの社長、言いそう、言いそう、ふふふふ。
実直:それでもいいよ。失敗しても損は無いしね。やってみようよ。
理香:おお、実直もポジティブになったなあ。なんかあったら、声か
けてくれよ。手伝うから。
実直:え!? て、手伝う?
実直と智子は驚いて理香を見た。
理香:な、なんだよ……どうしたんだよ……
智子:だって、理香がなおくんを手伝うよ、なんて言ったの……
実直:初めて聞いたから……
理香:い、いいだろ。私だっていいものはいいと思うんだ。あ、あの
な、サエナイじゃなくてBASiCSを評価したんだぞ……
智子:あ、理香も素直じゃないわね〜。ツンデレってヤツ?
理香:何だソレ。別に「なおくん」に手を出すつもりなんかぜんっぜ
ん無いから、ともちゃんも安心していいぞ。
智子:そんな心配してないわよ〜だ。ね、なおくん?
智子が満面の笑みを浮かべて、実直を見た。
実直:うん。僕はともちゃん一筋だから。ね、ともちゃん?
智子:うん! わ、た、し、も♪
理香:勝手にやってろ……
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◆人にもビルにも「BASiCS」
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実直は、まぶしいな、と思って窓の外に目をやった。新宿の高層ビル
群が、夕日を反射させている。
実直:サンライズは、あのビルたちと競合しているのか……
智子:え……? あ、新宿の高層ビルね……そうだね、何か面白いね
理香:おー、なるほど。ビルも人みたいなもんか……お互いに頑張っ
てるんだよなあ。
智子:あのビルのどこかで、誰かが似たような仕事をしているかもし
れないよね。、
実直:うん……サンライズにも負けないで欲しいな……僕らの会社が
入ってるビルだし……
智子:うん……私たちが出逢った場所だし……
理香:おいおい、そういうのは2人っきりでやってくれ。
実直:あははは。
理香:でもまあ大丈夫だろ。サンライズは負けない。私たちがいるか
らな。
智子:ふふ、理香らしいね。でもそうなるよう、頑張らなくちゃね。
これからが大変だよ。
実直:うん。大丈夫。BASiCSがあるから負けないよ。それに、
サンライズにはサンライズらしさ、新宿には新宿らしさがある
智子:なるほどね。棲み分けできる、ってことね。
実直:うん。あとは、自分たちの頑張り次第。
智子:なんか不思議。人にもビルにもBASiCSがあるなんてね…
実直:結局、BASiCSって「想い」の結晶なんだよね……自分ら
しさを貫き、それに共鳴してくれる「顧客」を探して……
理香:サエナイにしてはいいこと言うじゃないか。「想い」の結晶、
か……
智子:うん……結晶、って、形があるってことだよね。BASiCS
にすると、実体として「見える」ようになるし……
実直:うん。だからこそ、伝えられるし、伝わるのかな、って思う…
3人は、夕日が照らす風景を見つめていた。眼下では、車がミニカー
のように流れ、電車がプラモデルのように走っている。
実直は、その中にも多くの人が乗っていて、それぞれにBASiCS
があるんだろうな、みんな頑張っているんだろうな、と考えていた。
ボロは今もどこかで、誰かのBASiCSづくりを手伝っているのだ
ろうか。いつかは自分にもそんなことができるだろうか。いや、やり
たい、やってやる、と思った。それがボロへの恩返しになる、と実直
は思った。次は自分が「ボロ」になって、BASiCSを広めて、世
の中に恩返しをしたい。ボロは、そういう「想い」の化身だったので
はないか……。であれば、その「想い」を自分が引き継ぐ「使命」を
持っている。
きっと智子も同じ「想い」だろう。実直は智子をチラとみた。その顔
は相変わらずまぶしく輝いている。そのまぶしさに耐えきれないかの
ように、実直は視線を窓の方へと戻した。
窓の外を眺めている3人の顔を夕日がまぶしく照らしていた。その顔
は、誇りと充実感に満ちていた。「それでよいのじゃ」というボロの
声が聞こえたような気がした。
<完>
まるまる1ヶ月以上にわたった長期連載、ついに終了!
おつきあいいただき、ありがとうございました。また、激励メールを
いただいた方々、ありがとうございました。
長期連載は初めての試みで、色々と発見がありました。一番の発見は
「毎号楽しみです!」というメールを多くいただいたことです。本当
にありがとうございました!
さて……お気づきかもしれませんが、この「外伝」にはモデルがあり
ます。そうです……拙著「経営戦略立案シナリオ」のZビルの事例で
す。
●「経営戦略立案シナリオ」 佐藤義典 著 かんき出版
経営戦略のガイドブック:経営者は必読!
http://www.sandt.co.jp/scenario.htm
本には結果だけを載せていますが、実際には私が悩み苦しみながら、
考えていきました。
もちろんボロはいませんでしたし、彼女とこんなに楽しそうに打ち合
わせしながら進めたわけでもありませんが、考え方のプロセスは割と
リアルにシミュレーションしています。
経営戦略立案シナリオのケースの背景にある考えるプロセスとしても
この「外伝」はお楽しみいただけます。お持ちの方、今一度経営戦略
立案シナリオを読み返してみてください。
サエナイ主人公、日向実直と、アイスドール 鳥野智子、アイアンレ
ディー 高見理香の3人が織りなす珠玉のラブロマンス……ではなく
て人生戦略物語!
「白いネコは何をくれた?」 佐藤義典著 フォレスト出版
物語形式でわかりやすいマーケティング戦略と人生戦略
http://www.sandt.co.jp/shiroineko.htm
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▼今日の日記▲
火曜日は鹿児島商工会議所で講演。
講演はもちろんBASiCS。講演会には、売れたま!ファンの方も
いらして、鹿児島でもBASiCSが広まりつつあるんだ、と感じら
れて嬉しくなりました。講演会の後の飲み会も盛り上がって、何より
です。
鹿児島に行ったのは生まれて初めてで、私にとっては、日本の中では
(というか北半球では)最南端の場所でした。さすが南国、異様に暖
かいなあ、と思ったら東京も暖かかったみたいですね。
「黎明館」という鹿児島市内にある歴史博物館に行ったのですが、非
常に興味深いものでした。縄文時代くらいまでさかのぼって鹿児島の
歴史を展示しています。もちろん近代史もあって、幕末に薩摩が輩出
したきら星のような人財も展示されていました。薩英戦争でイギリス
の力を見せつけられた薩摩藩は、イギリスに留学生を出し、おそらく
はそこで持ち帰った技術が、倒幕につながり……と、歴史ってやっぱ
りつながっていて、色々な人の人生が連なっているんだな、というの
があらためて実感できました。私も、今にいきる人間として、歴史の
流れの一部であり、どのような貢献を後世に残せるのかなあ……と考
えながら見ていました。
で、鹿児島といえば、黒豚とラーメン! 黒豚のしゃぶしゃぶの豪華
ランチ(3000円!)をいただき、ラーメンも2杯食べました。豚
骨ベースですが、麺が博多とは違いますし、にんにくチップが結構効
いてます。豚トロが入ったラーメンも食べたのですが、この豚トロは
絶品! ラーメンに入ってる豚肉の中では、一番おいしかったかもし
れません。
色々な意味で充実した講演になりました。また次回もあるかな??
●今日のiPod Tune:ココロあたたまるポップスソング!
もう立春とはいえ、まだまだ寒いです。気候が寒くても、お財布の中
が寒くても、ココロの中さえあたたかければ幸せ!
ということで、ココロあたたまるポップスソング特集! 和洋問わず
ココロあたたまる曲(例によって独断と偏見で)をとりあげていきま
す!
今日の曲は……
Glory of Love by Peter Cetera
1986年、当然全米1位をとった大ヒットシングル。Chicagoのリ
ードヴォーカルだった彼の、Chicago脱退後初の全米1位シングル。
当時、Chicagoと言えばPeter Ceteraのハイトーンヴォーカル、とい
うようなイメージで、確かCDのキャッチコピーか何かが、「たった
1人のシカゴ」とか呼ばれたりしましたね。
まさに「愛の賛歌」、Peter Ceteraの真骨頂のラヴバラード。歌詞は
日本語にするとすっごく恥ずかしいくらいのラヴソングですが、英語
で聞いてると違和感はなく、ストレートに愛を語られ、ココロがあた
たまる曲です。「君が望んでいるヒーローになってあげるよ」なんて
言ってみたい♪ この曲も英語の勉強に使ったので、暗記していて、
ソラで歌えます。
去年12月に来日していたみたいです。知らなかった……行きたかっ
たなあ……
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マーケティング戦略実践:実行のためのチェックリスト
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◆次号予告:ボロが教える戦略BASiCS 解説編 1
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●11回に渡ってお届けした、戦略BASiCS BtoB編。この
まま終わらせるのももったいないので、次回は、その理論編という
か、解説編です。ボロの、実直の、あの一言の意味を考えていきま
す。まずは11回分、全部お読みになっておいてくださいね!
▼飲み会に、数部印刷して行こう。グチ大会より、前向きの話を!
▼彼氏・彼女との、知的な話題づくりに!
▼ご無沙汰していたあの人との会話のきっかけに、転送しよう!
▼お客様訪問の際のおみやげに、プリントアウトして渡そう!
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